相続のお手伝いをしていると、先代(亡くなった方の親)名義のままになっている不動産物件を少なくない頻度でみかけます。理由は
①(誰の名義であろうと)利用状況に変化は無いのでそのままにしていた
②遺産分割が整っていない
③忘れていた
④当時は当事者でないのでわからない
といったところです。②の場合はさておき(それはそれで問題ですが)、先代名義のまま相続が発生することは、様々な問題点をはらんでいます。
名義変更されていない不動産の問題点
例えば、祖父名義になっている不動産があったとします。祖父には子(長男、次男、長女)が3人(一次相続人)おり、それぞれの子にも3人のお子さんがいるため、孫が合計9人(二次相続人)いたとします。(話を単純化するため配偶者はいないものとします)。祖父名義の不動産は長男家族の4人が利用しており、今回長男が亡くなったとします。
長男に相続が発生したため、長男子息が当該不動産を自身の名義にするには、叔父や叔母にも署名押印をいただかないといけません。(祖父の相続のときの遺産分割協議書があり、相続登記を失念していた場合を除く)また、叔父や叔母が既に他界している場合は従弟からも署名押印をいただくことになり、手続きが複雑になります。
これでは、相続するにも処分(売却)するにも大変です。
なぜこういったことになるのかを遺産分割協議の成立要件から検討してみます。
民法における取扱い
民法では、「遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の分割ができる」と規定しております。ここで重要なのは、遺産分割協議結果を残す方法(例えば書面)を規定していないことです。つまり、口頭でも合意があれば、遺産分割協議は成立します。先の例では、もしかしたら祖父の相続の際は、口頭による合意があり、相続登記等にはお金がかかるため、そのままにしていたのかもしれません。
遺産分割協議が整ったかどうか不明な場合
一次相続時に遺産分割協議が整ったかどうかが不明な場合は特に反証が無い限り、遺産分割は未了であると取り扱われる事例が多いように見受けられ、一次相続者が他界している場合は、その地位は一次相続者の相続人(二次相続人)に引き継がれます。従って、遺産分割協議の当事者が増えることになります。
どのような反証事例があったの?
税務では、例えば、①遺産分割協議はいつでもできるにも関わらず、行われずに②長期に亘って利用者が使用収益を得ており、③その利用者名義で相続登記がされていたことなどから、共同相続人全員の黙示の合意の下で利用者が単独で相続したものと認められた事例もあります。
民法で必要がない遺産分割協議“書”をなぜ作成するか?
一番の目的は、口頭では、言った言わないというトラブルに発展しかねないので、そのトラブルを避けるためです。
次に、遺産分割協議書は相続税の申告時における配偶者の税額軽減や小規模宅地の特例を受ける際に添付する要件になっている場合や、各種資産の名義変更でも必要な場合があるからです。
遺産分割協議書は記名+押印でOK?
結論から申し上げると、相続人全員の「自署+押印(実印)」が望ましいです。相続登記等では記名+押印(実印)でもOKですが、相続税の各種特例に添付する遺産分割協議書は「自署+押印(実印)」と規定されているからです。また、記名押印でトラブルになった有名な事例は、本人も日本経済新聞の「私の履歴書」で書いていましたが、ニトリホールディングスの似鳥社長の事例ですよね。
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このコラムは、平成27年8月25日時点の法令により作成しているため、今後の法改正により異なる取り扱いとなる場合があります。
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