会社のグローバル化に伴い社員の海外勤務も多くなりました。出国時に海外勤務期間が1年未満であることが明らかである場合を除き、非居住者として取り扱われ、出国のタイミングで年末調整を行います。しかし、後発的な事由により急きょ帰国する場合もあります。今月のコラムはそのような場合の税額の計算(年末調整)について、最近頂いた質問に対する回答形式で取り上げたいと思います。
【前提】
6月30日にA国に出国(1年以上の予定)
9月1日に急きょ帰国
した場合の
① 年末調整はどのように行うのか?
② A国の個人所得申告費用を会社が負担した場合の取扱い(支払は9月以降)
③ A国の租税を日本国の所得税から控除できるか?(外国税額控除の取扱い)
【回答】
① 年末調整はどのように行うのか?
1月~6月及び9月~12月の合計 で再度年末調整
解説
海外勤務となった者は、その勤務が予め1年未満であることが明らかである場合を除き非居住者として取り扱われます。(所法3②、令15、基通3-3)
本件の場合、海外での勤務が予め1年超であることが明らかであるか否かの事実認定の余地はあるものの、A国で管理・専門職向け雇用許可書を取得していることからも、出国後は非居住者となるものと思われます。
その後、後発的な事情変更により急きょ帰国することにより結果、滞在期間が1年未満となったとしても、帰国するまでは非居住者として取り扱われます。
次に年末調整の計算ですが、年の中途で出国して非居住者となる場合や、海外勤務から帰国して居住者となった場合は年末調整が必要となります。(基通190-1(2))
年末調整対象は、居住者に対して支払うべきことが確定した給与とされており(所法190条)、また所得税法第102条により年の中途で非居住者が居住者となった場合の税額の計算を規定しておりますが、年末調整も同様に居住者であった期間内に生じた給与所得(1月~6月及び9月~12月の給与を合算)を基礎として行うものと解されます。(所法102条)
なお、扶養控除等申告書及び給与総額2000万円などの要件は、居住者と同様です。
② A国の個人所得申告費用を会社が負担した場合の取扱い(支払は9月以降)
居住者としての給与所得として取り扱われるものと考えられます。
解説
本来、個人で負担すべきものを会社で負担しているため、その経済的利益は給与課税されるものと解されます。(所28条、36条、基通36-21~)
次にその源泉は国内か国外かですが、本件を負担する理由は、海外とはいえ国内に本社がある会社に赴任させるために発生したものであると考えられることから、国内源泉所得に該当すると解します。(所法161条八イ)
そして、給与所得者への支払のタイミングが9月以降とのことですので居住者の給与として取り扱われるものと考えられます。(所法3条、令14条)
③ A国の租税を日本国の所得税から控除できるか?(外国税額控除の取扱い)
外国税額控除できないものと解します。(所102条、令258条④)
解説
所法102条において、「“居住者”であった期間に生じたすべての所得と非居住者であった期間
に生じた“国内源泉所得”」を一定の方法により合算して計算しますと規定しております。
一定の計算は令258条に規定されていますが、④において外国税額控除が規定されており、そこには「非居住者期間内に生じた所得はないものとみなす」と規定されております。
さらに租税条約で日本国居住者の外国税額控除が規定されておりますが、A国での給与は日本の国内源泉所得ではないと判断できるため、その適用は難しいものと解します。
渋谷広志税理士事務所・行政書士渋谷事務所のサービス
当事務所は、サラリーマン資産家に対しても各種サービス(納税管理人等)を提供しております。出国税(国外転出時課税制度)にも対応しておりますので、お気軽にご相談ください。
このコラムは、平成27年9月25日時点の法令により作成しているため、今後の法改正により異なる取り扱いとなる場合があります。
また、専門的な内容を判り易くするため、敢えて詳細な要件などを省略していることもあります。さらに、文中の意見の部分には私見もあるため、本コラムに記載されている内容を実行する際は、当事務所までご相談ください。