Q:遺言書の種類と改正内容について教えてください。
私もおかげ様で77歳になり、知人から遺言書を作成した方が良いと言われました。
そこで遺言書を作成しようと考えているのですが、昨今の民法改正で見直された方式があるとも聞きました。
遺言書の種類と改正内容を教えていただけますか?
A:
江東区門前仲町の税理士 渋谷広志(しぶやひろし)です。
ご質問ありがとうございます。
ご相談者様がお聞きしたとおり、民法改正により遺言書の方式も見直しされました。改正の内容は、遺言書のうち自筆証書遺言の方式緩和なのですが、具体的説明に入る前に、まず遺言書の種類を説明します。
遺言書には、次の3種類があります。すなわち、
1.公正証書遺言
2.自筆証書遺言
3.秘密証書遺言
この中で、実務でよく使うのは、1の公正証書遺言と2の自筆証書遺言です。
(3の秘密証書遺言は、私自身は取り扱ったことがありません。)
そして、民法改正により、2の自筆証書遺言の方式が緩和されると共に法務局による遺言書保管制度ができ、従前よりも使いやすくなりました。それでは、それぞれの遺言について解説したいと思います。
1.公正証書遺言
(1) どんな遺言書?
遺言者が、公証人の前で、遺言の内容を口述し(読み上げ)、その内容を公証人が文章にまとめたものです。
遺言内容については、公証人も相談に乗ってくれますが、時間的制約がございますので、実務的には行政書士や司法書士等の専門家がご依頼者の遺言内容を整理したうえで、公証人におつなぎするケースが多いです。
公証人は、裁判官等を退官された方が多い(主観的ではありますが年配でお話好きな方が多いです(笑))ので、作成された遺言は、無効になるケースは少ないです。
また、家庭裁判所の検認を受ける必要が無いので、相続手続きもスムーズに進められます。
作成にあたっては、証人が2人必要ですが、適当な人が見当たらないときは、公証役場で紹介していいただけます。
また、遺言者が公証役場に行くことができない場合は、公証人が自宅や病院等に出張して作成することもできます。
ただ、自筆証書遺言に比べた場合のデメリットは費用がかかることです。
(2) 文面の例
さて、その公正証書の文面例ですが、先にも述べたとおり、一般的には専門家と打ち合わせのうえ作成するので担当者によって異なるのですが、一例を示せば以下のとおりとなります。
(余談ですが、事前に 遺言者⇔司法書士⇔公証人 で打ち合わせするので、実際に口述は、すでに作成された文面を読み上げるだけになります。)
2.自筆証書遺言(と保管制度)
(1) どんな遺言書?
民法改正前は「全文自筆」でしたが、改正後は遺言書本文のみ自筆であればよく、財産目録は自筆でなくともよくなりました。
具体的には、財産目録は、パソコン印字でも、登記簿謄本や通帳のコピーの添付でもOKとなりました。
ただし、その目録には署名と押印が必要になります。
(2)自筆証書遺言保管制度とは
令和2年7月10日に法務局による自筆証書遺言の保管制度が創設され、完璧ではございませんが、それでも、従前までの自筆証書遺言と比べて次の点でメリットがあります。
① 自筆証書遺言の形式適合性について外形的なチェックを受けられる。
② 原本は50年、画像データは150年保存されるため紛失等のおそれがない。
③ 利害関係者による遺恨書の廃棄、隠匿、改ざん等を防ぐことが可能
④ 相続開始後、家庭裁判所による検認が不要
⑤ 相続開始後、相続人等は全国どこの法務局においても遺言書情報にアクセスできる
⑥ 相続人等のうち一人でも遺言書を閲覧等した場合は、他の相続人全員に対して通知が届く
保管する自筆証書遺言は、無封のものに限られており、遺言者自らが法務局に出向かなければならないという条件がついておりますので留意してください。
(でも、これで、自筆証書遺言の問題であった、遺言書の存在が相続人に気づかれないことリスクが軽減され、さらに家庭裁判所への検認手続きが省略できることになりました。)
(2) どんなことに注意が必要?
① 遺言書保管制度で、遺言書の外形的なチェックは受けられますが、法定要件を充足していることの担保にはなりませんので、留意してください。
② また、偽造のリスクは軽減されましたが、その遺言が自筆(自己の意思)であることの完全な証拠にはならないことも留意してください。
(ただ、法務局に預けるときに①本人が自ら②身分証明書と共に③法務局に出向く必要があるので、相当リスクは軽減されていると考えられます)
③ 財産目録に通帳のコピー等を添付する場合は、通帳等の日付と遺言書の日付が異なることは充分に考えらえます。そこで、通帳のコピーではなく、遺言日と同日の残高証明書の方が望ましいと考えます。
④ 財産目録に押印する印鑑は遺言書本文の印鑑でなくてもいいことになっておりますが、遺言書と同一の印鑑が望ましいと考えます。
⑤ 遺言書本文への財産目録の添付方法については定められていないですが、ステープラー等で袋とじにし、契印をしておくことが望ましいと考えます。
(3) 文面例
3.遺言書の探し方
遺言書の探し方ですが、生前に遺言者に聞いておくことが一番ですが、事前に遺言の内容が知られてしまうことから後日のトラブルを懸念して教えない可能性もあります。
そこで遺言書の種類が、公正証書遺言の場合は、公証人役場で検索を依頼すれば、確認することが可能です。
また、自筆証書遺言保管制度を利用により、法務局で保管された遺言書を確認することができます。
4.結びに代えて
民法改正により、自筆証書遺言保管制度ができました。大変便利な制度ですが、留意すべき点もございます。
遺言書を作成する目的のひとつにスムーズな相続だと思います。その目的達成のための手段としてどの方法が良いかを考えて実行されればと考えます。
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このコラムは、2019年7月31日時点の法令により作成しているため、今後の法改正により異なる取り扱いとなる場合があります。
また、専門的な内容を判り易くするため、敢えて詳細な要件などを省略していることもあります。本コラムに記載されている内容を実行する際は、予め税の専門家にご相談してください。
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